カテゴリ1の安全関連部に対するパフォーマンスレベルの計算事例を紹介します。
前提条件
ここでは、部品加工設備に対して組み込まれたカテゴリ1の安全関連部のパフォーマンスレベルを求めていきます。
設備概要
図1の部品加工の設備を対象とします。
- モータが回転することにより、部品加工が行われる
- 設備には扉が1カ所ついており、そこから部品の出し入れと設備の内部清掃を行なう
- 設備内へは、身体の一部しか入れることができないため、設備内作業中は身体が障壁となり、扉を閉めることはできない
- 操作用(起動、停止)の押しボタンと、モータの停止状態を表示するランプ(緑)を備えている
運転方案
図1の設備に対して、下記の方案(図2)とします。
- Startボタン押下で設備が起動(モータが回転)する
- Stopボタン押下で設備が停止(モータが停止)する
- モータを停止させているときは、ランプ(緑)を点灯させる
- ランプ(緑)が点灯していることを確認してから設備内作業を開始する(安全確認)
- 扉を開いた時には、モータを停止させる(停止忘れ時のバックアップ機能)
稼動条件
この設備を下記の条件で動かすものとします。
- 10分に1回、起動・停止および扉の開閉を行う。
- 扉の開閉は、停止状態で行うものとする。
- 稼動時間は、16時間/日(8時間×2交代)
- 稼動日数は、240日/年
- 安全機能の確認テストを 1回/日 行う。(始業前点検)
回路構成
これらに対する回路を図3で構成するものとします。
安全機能
この設備の安全機能は、扉に対するインターロックです。
仕様は下記のようになります。
- 扉Openで、設備停止かつ予期しない起動を防止
- 停止カテゴリ0
- 入力: ドアスイッチ(LS) ,出力: 主回路コンタクタ(Q)
パフォーマンスレベル計算
安全機能の回路
前述の回路に対して、安全機能に影響する部分は、図4の網掛け部となります。
ブロック図
これをブロック図に変換すると、図5のようになります。
コンポーネント情報
図5のコンポーネントに対するは、下記の通りとします。(ISO13849-1 表C.1より)
- ドアスイッチ(LS):B10d=20,000,000
- コンタクタ 主回路(Q主):B10d=1,300,000 、 補助接点(Q補):B10d=20,000,000
なお、ドアスイッチ、コンタクタとも十分吟味されたコンポーネントであるとします。
MTTFd~PFHd、パフォーマンスレベルまで
これでパフォーマンスレベル計算を行う前提条件はすべて揃いましたので、計算を進めていきます。
Nop
1年間の稼動回数はすべて同じ値で、
(6回/時×16時間/日+1回/日)×240日/年 = 23,280回/年
と算出されます。
MTTFd
各コンポーネントのMTTFdは
LS 20,000,000/(0.1×23,280)= 8,591年
Q補 20,000,000/(0.1×23,280)= 8,591年
Q主 1,300,000/(0.1×23,280)= 558年
となり、システム全体のMTTFdは
1/8,591 + 1/8,591 + 1/558 = 1/493
493年と求まります。
DCavgとCCF
今回は、カテゴリ1なので、対象外です。
PFHdとパフォーマンスレベル
これまでの情報をまとめると、表6のようになり、ISO13849-1 附属書Kより、
PFHd=1.14×10-6 、PL=c
となりました。
おまけの考察
今回、コンタクタのMTTFdが558年に対して、システム全体のMTTFdは493年と、1割減程度の数値になっており、それほど差が無いと言えます。
これは、MTTFdを求める際に、逆数の和を用いている関係上、最も桁が低いMTTFdに近い数字になってしまう特性によるものです。
設計時の概算であれば、これを逆手にとって、最も桁数の低いMTTFdのコンポーネントのみでシステム(またはチャネル)のMTTFdを求めて、その1~3割減がシステム全体のMTTFdとすると、効率良く暗算で設計が進められます。
まとめ
今回は、カテゴリ1のパフォーマンスレベル計算事例を紹介しました。
ブロック図まで作ってしまえば、あとは型に当てはめていくだけですので、それほど難しくありません。
逆にブロック図の作成を間違えてしまったり、複雑にしてしまうと、パフォーマンスレベルを算出できなくなりますので、シンプルな設計を心がけていきましょう。
参考文献: ISO13849-1:2015